思ったこと、考えたこと。

日々思ったことや考えたことを日記代わりに綴っていきます。がんばります

限界を越え出るような経験

かつて登攀したことのないルートは立ちはだかるがごとくに険しく困難に思え、それゆえに燦然と輝かしいものとして俺の憧憬を育む。しかし、一度完登してしまえば、大半のルートは途端に色褪せ、矮小で取るに足りないものに頽落してしまう。明星山南壁 フリースピリッツも谷川岳一ノ倉沢 南稜フランケも、さらには不帰岳1峰尾根も三峰川岳沢でさえも、なんなく登れたという時点で今となっては始めから登る価値はなかったかのようにさえ感じられる。

これらのルートは、俺が乗り越えることのできる限界の枠内に行儀よくこじんまりと収まっている、小綺麗な家具のようなものに過ぎない。もしリビングに並べられたこれらの調度品がいかに見栄えしているか、その配置が互いにいかなる調和をなしているかを来訪者に説いたりすれば、俺はとたんに自惚れた小金持ちとしてその醜態をさらすことになろう。だがそれ以上に真に俺を怖れさせるのは、グロテスクに飾り立てられたこれらすべてを、まるで正当な請求権を生まれ持った真理専用の人間であるかのように後生大事に抱え持って一生を生き、そしていまわの際になって、水晶玉のように美しく思われていたものが残らず血と糞にまみれた汚物の塊であることを暴露されながら、虚栄とまやかしの恥辱の中で暗い土の底へゆっくりと沈んでいくことではないか?

だから俺がこのようにうそぶくことで、とうてい完登することのできないルートにこそ価値があると言いたいわけではないことをわかってほしい。俺が登ったルートは、俺が登ったというただそれだけの理由で、お前らが登ろうが登るまいが、はなからゴミみたいなものだ。