これまで5.10台、5.11台のルートをそれぞれ約140、5.12台のルートを約60、マルチピッチルートを約70登ってきた中で、思い出深いもの、思い入れのあるものを振り返ってみたい。とんでもなく苦労させられたり、二度と登りたくなかったり、会心の一撃で思わず完登できたりといろいろあるが、いまでも鮮烈に記憶が残っているものはごくわずかだ。
■湯河原
ダイヤモンドヒップ 5.11a
登ったのは2020年2月。初めて登った5.11台のルート。クライミングを始めて2-3年経つもなかなか5.11が登れずに悔しい思いを抱えていた。一緒に行くパートナーがなかなか見つからず外岩へ行く機会があまりなかったので、限られたチャンスを活かしてなんとしても登りたかった。事前にyoutubeの動画でムーブを入念に確認してからトライしたところ、なんとかぎりぎりフラッシュできた。ムーブがわかりづらいので、いま再トライしてもすんなり再登できるとは思えない。
コンケスタドール 5.12a
登ったのは2021年12月。初めて登った5.12台のルート。当時はとにかくなんでもいいから5.12aのルートを1つ登りたくて、アルパインクライミングやトラッドにはほとんど興味がなかった。二子山で5.12aをいろいろトライするも登れそうな気配がなく、なんとか自分でも登れそうなお買い得な5.12ルートを探し求めていた。コンケスタドールは5.12aの中でもかなり易しい部類に入ると思うが、完登できてようやくホッとできたことを覚えている。これを1dayで完登したことは大きな自信にもなったし、逆に自分の実力を過信する原因にもなった。ここからさき1-2年は、他の岩場で5.12ルートをなかなか完登できずに苦しい期間が続くことになった。
■小川山
完全なる酒乱 5.10b
終盤は体力を使い果たして、インフルエンザにでもなったかのように、朦朧としながらただ壁に挟まっていた。こんな状態でもテンションをかけなかったのは、このトライですでに全身が疲れきっていて、再度挑戦する体力の余裕はないことが明確だったからだ。ビレイパートナーはクライミングへのモチベーションがそれほど高くないし、このチャンスを逃したら次にトライする機会がいつになるかわかったものではない。だから意地でもオンサイトで登りきるしかなかった。一介のサラリーマン、企業勤めの技術者に過ぎない以上、岩場を訪れる機会や難ルートをトライする機会は限られている。そのことが逆に、ひとつのトライを会心のものにすることがある。
■瑞牆山
春うらら1p目 5.11b

トラッドの5.11を登るというのは、スポートルートの5.12よりもはるかに大きな壁として立ちはだかっているように感じた。そして実際にそうだったのだ。春うらら1p目は2023年10月に初めてトライしたが、完登は2024年4月のことだった。レッドポイントに2シーズンかけるというのはこれが初めてだったかと思う。完登したときは、クライミングの努力が報われたという感無量の思いだった。
ベルジュエール2p目 5.10a
マルチピッチクライミングの登竜門としても知られているこのルートの核心部は、1ピッチ目の5.11bや、上部のイの字クラックにあるとよく言われる。しかし実際はこの2ピッチ目にあると思う。出だしはいきなりランナウトしながらスラブを左へトラバースし、そのあとはプロテクションの取りづらい草混じりのコーナークラック。このコーナー部は湿っていることが多い。他のピッチと比較してメンタル的に際立って厳しく、ドカ落ちのリスクも高い。トラッドにまだ十分に習熟していないクライマーがこのピッチを目の当たりにしたときの絶望感は察するに余りある。だが、ここを抜ければベルジュエールは8割方終わりと言っていい。
エアウェイ 5.12a
登ったのは2025年10月。クラックの経験を少しずつ積むことを通して、トラッドでの登攀力がスポートルートの実力に近づいてきていることを実感していた。エアウェイは中間部のボルトでプロテクションを取るので純粋なトラッドではないにせよ、この難度でランナウトするルートを完登できたことは自分でも驚きだった。5.11や5.12のトラッドをこれまで以上に果敢にトライしようとする大きなきっかけとなった。
■二子山
鬼ごろし 7c+

登ったのは2022年12月。幸いにも2day 5トライで完登できたとはいえ、ひとつのルートにこれほど執着したのは鬼ごろしが初めてだったかと思う。終了点間際、核心部の遠い一手がどうしても解決できなかったが、吠えながらデッドで取りに行くことでレッドポイントできた。これ以降、フリーの厳しいセクションでは吠えることが癖になってしまった。7c+というグレードを完登するのはこれが初めてで、それまでは7b+が限界だったから、自分にも5.12+が登れるというのは大きな自信になった。だが、他の岩場で5.12後半を安定してレッドポイントできるというにはほど遠く、これ以降はレッドポイントのグレードが停滞することになる。
■甲府幕岩
スモーキーマウンテン 5.12c

登ったのは2025年11月。2024年からは、単にお買い得な5.12を完登するという目標から、あらゆる岩場で5.12ルートを当然のように登るということをかなり意識していた。それは瑞牆の高難度マルチを見据えていたこともあったし、5.13ルートの完登に向けた一番の近道だと信じてもいたからだ。それでも、2025年6月にスモーキーマウンテンに初めてトライしたときは、中間部のあまりの厳しさに愕然とし、自分のクライミング能力が一気に疑わしいものに感じられた。つまり、御前岩などの石灰岩以外の岩場では5.12前半がせいぜいのところで、5.12後半を登るにはてんで実力不足だという疑念だ。だが、コンディションが良い秋シーズンに再トライして完登できたことは、自分にとって大きな励みになった。5.12ルートを片っ端から登るという鍛錬が間違っていなかったこと、これを継続することで確かに5.13に近づいていることを確信した一瞬だった。
■御前岩
APA 7b
APAは自分にとって5.12aのスタンダードであり、その日の締めに登って全力を出しつくすのにふさわしいルートだ。中間部で何も考えずに直上すると、隣接するDr. メイジのラインに合流してしまうので、意図的に左へ避けないといけないのが玉に瑕。それでも、これだけのスケールのルートを登るたびに格別な思いを味わう。
Dr. メイジ 8a

登ったのは2025年4月。現時点の自分の最高グレードであり、ひとつの到達点だと思う。5.13ルートを登ることは自分には無理だとそれまで思っていた。だが、これを完登したときは前腕にわりと余裕があり、もう少しグレードを伸ばすこともできるのではないかと思うようになった。とうてい超えられない壁だとこれまで思い込んでいたものが実はそうではなく、もっと先まで行けることを教えてくれたルートだ。