早池峰山の縦走路においては、その途上において岩塊が将棋崩しのごとく積み重なった岩場を越えねばならず、登山者はちょっとした一軒家ほどもある岩をよじ登っては這い降りることをくり返さなくてはならない。山を登るとき、岩場は人間の身体の動きをひとつのパズル解きのようなアスレチックに還元してしまうから好まない、とレヴィ=ストロースは述べている。しかし、私に言わせれば、岩場こそは、人間の身体を重力と効率という運動の束縛に――環境そのものに――はめ込んでしまうことで、身体と世界のひそやかな結びつきの甘美さというものを世界の側から合図してくれるきっかけとなる、ひとつの道標となるのである。そして、忘れもしない、早池峰のあの岩塊を超える美しさに私はまだ出会ったことがない。