「イミテーション・ゲーム」を観た。
タイ人の女性と相変わらず毎日lineをする。シャイでいて寂しがり屋の彼女は、社会人3年目の先輩のくせして、年齢が一つ上だからというだけで俺のことを"my brother", "bro"と呼んでくる。ともに日本へ来ている馴染み深い他の同僚が早い日程で帰国してしまい、故国が恋しくてつらい気持ちでいっぱいなのだろう。俺のような無愛想でそっけない人間にさえこんなに接してくるのだから、よほど心細く感じているにちがいない。
彼女の仕事をサポートし、ときには先導しつつ、タイの子会社で新製品を量産するのに必要な工具を買いそろえるのが俺の仕事だ。俺は職場では彼女とは慎重に距離を置きつつも、誠意をもって丁寧に補佐をしている。彼女が俺のことをどう思っているのかは分からない。彼女の方でもプライベートでは一定の距離を置きたがっているようだが、それが内気なのか、タイ人らしい面倒くさがりな気質なのか、あるいは異性への奥ゆかしい警戒心ゆえなのかは分からない。
それでも、職場での事務的な会話に反して、こんなにlineですり寄ってくるからには、俺に何かを期待しているのだろう。性的な期待なのか、媚を売れば俺が仕事を熱心に手伝ってくれるだろうという女性らしい打算なのか、あるいはたわいないことを語り合って、明日を切り抜けるための気力をふたたび温めてほしいのか。彼女の中でも区別がついていないかもしれない。日本の三月はタイ人にはあまりに寒く、今朝は雪さえ降った。馴染みのない国に放りこまれて、寒空の下、薄着で毎日長時間のバス通勤を強いられる彼女の心痛はいかばかりだろう。
俺は女性のコケットリーをあまりに怖れているので、たとえ女性が救いを求めて手を伸ばしていようが、その指先から漏れるわずかな性的な気配を察知して、差し伸べようとする俺の手はたちまち冷たくこわばるばかりだ。だが、年配の男ばかりがいる、聞いたこともない言語が飛び交うこの職場において、彼女は今やひとりきりで耐えている。そんな彼女が俺になにかを求めているのに、彼女の感じる心細さを女特有の媚びへつらいだと切り捨てて、これ以上なにもしなくてよい理由があるのだろうか?