もう一度読み返してみたいという恋い焦がれるような思いをさせる小説というものがある。他の誰でもないまさにこの私が見出した詩情、小説と私の間に架け渡された秘密の合図が読書の記憶をこれ以上なく美しくする。それは、美形なわけでもないのに、一度その固有の美を見出した途端に頭から離れなくなる、恋い慕う人の顔に似ている。「ペドロ・パラモ」、俺が読み返したいのは君なのだ。
安部公房の「他人の顔」でも似たようなことを言っていたと思うが、人の顔はなにか、性器のような、その人のもっともひそやかで猥褻なものと密接に結びついていて、それが赤裸々に表出したものに思えるときがある。顔はひとつの卑猥な告白であり、しかもセンセーショナルに暴かれた告白なのだ。