思ったこと、考えたこと。

日々思ったことや考えたことを日記代わりに綴っていきます。がんばります

タイ出張Ⅱ

宿泊するホテルはマーケットの一角にあり、マンゴスチンランブータンなど、見たこともないフルーツを果物屋でいくつか買った。それを職場にもっていって、食べ方を教えてくれと隣の席の女性に頼んだところ、皮をむいて食べやすいように小皿によそってくれた。それだけでなく、周りの席のエンジニアは毎日お菓子や焼き鳥やごはんなどを俺にくれた。かれらの親切心がたとえ部外者に対して一時的に示す表面的なものであるとしても、その屈託のなさには驚かされる。
仕事の話をしよう。ありていに言って、俺は今回の出張で子会社になにひとつ貢献することができなかった。原因は明らかで、俺が動作確認を済ませておくべきはずだった製品製造用の治具が不完全なために、出張中に調整を終わらせることができなかったためだ。また、新製品製造ラインの立ち上げ業務に一生懸命に食らいついているつもりでも、日々変化していく状況にとうとう追いつくことはできなかった。俺が担当として内容を把握しているのは全体からしたらほんの豆粒のようなもので、製造ラインの全容は巨大な城のように計り知れないものだった。だが、こうした自分の無力さ以上に俺を惨めにさせて、胸が張り裂けるような苦しみを与えたのは、俺がすべき業務を果たさずに、ついにはKをうんざりさせ、半ば呆れさせてしまったことではないだろうか。

俺がタイ出張が決まってこうも胸を躍らせていたのは、ひとえにKに再会してあのとろけるような笑顔をまた見ることができると思ったからだった。だが、Kはまるで初めて会うような態度で終始俺に接したのだった。彼女が日本に滞在していたとき、あれほど毎日lineでメッセージを交換したにも関わらず、彼女はそれをあるまじき過去としてなかったことにしたいとでも言うような素振りだった。それは仕事中だからだと俺は自分に言い聞かせたが、それも6月10日土曜日までのことだった。

その日、同じく出張に来ている部署の先輩とともに、タイ人KとNにアユタヤ観光に連れて行ってもらったのだった。Kは観光に行く前からすべてにうんざりしているような態度を隠そうとしなかった。俺の顔を見ようともしなかったし、なにか話しかけても眉間をしかめて適当に一言返事するだけで会話を終わらせようとするのだった。そして、俺は、彼女が前日までの素振りになんら隠し立てをしていなかったことを痛烈に思い知った。俺はKの態度に戸惑いを覚え、彼女のしかめ面をのぞき見るたびに、好意を伝えることに恐怖しか感じなくなっていた。