山に重く覆いかぶさる夜のとばりが太陽にしぶしぶ王座を明けわたす時間、空気の色合いは黒檀色から深海のように黒みを帯びた紫へ、そこから藍で染め上げたような濃青へ、さらには、徐々に明度を増してカゲロウの羽のような白みをたたえ始める。しんと冷たい大気に身をさらして脳漿に空気をすばやく送りこむと、さまざまな色合いの気体が身体中を駆けめぐって体内の熱を取りこみ、蒸気機関が泥炭をむさぼり食って絶え間なく吐き出す蒸気のように、燃えさかる灰白色の呼気として大気へとふたたび放たれる。
だから、女を抱くことより山登りの方が俺を高揚させる。