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思ったこと、考えたこと。

日々思ったことや考えたことを日記代わりに綴っていきます。がんばります

ハドリアヌス帝の回想」を読んだ。ウェヌスとローマを祭る神殿の献堂式を飾る祝典のつづく夜、炎上するトロイを思わせるかのように喜びの火に燃えさかるローマを高台から眺めるハドリアヌスが、時劫の流れのなかで、波のうねりのごとく生まれてはとって替わられる何百万もの建造物に思いを馳せつつ、愛するアンティノウスに深紅の帝衣を投げかけるくだりは、得も言われぬ美しさを湛えている。それは、ついに手放すことになる永遠を愛の中でこの大地の片隅でひそやかに成就しようとするひとりの男の孤独なのだ。

 

わたしがめったに着ようとせぬ紫の帝衣、清いあの衣を、わたしの守り神たるあの少年の肩に投げかけた。あの気も狂わんばかりのよろこびの瞬間については語らぬことにする――たしかに、帝衣の深紅と、彼のうなじの薄い金色との対照はわたしをよろこばせたが、とりわけ、幸福とか幸運とかいう不確かで曖昧な実体を、かくも地上的な形で具象化し、肉体の熱とたのもしい重みをそれに賦与することがうれしかったのである。