2015-10-12 ■ 読書 思惟 泥の中を這いつくばるように「ハドリアヌス帝の回想」を読み続ける。 カフカの「判決」を読んだのは高校三年生のときだったが、改めて読み返してみると、私と小説とのあいだに橋渡された謎との間合いを測るためには欠かすことのできない視力であるところの、ひとつの対象を見据える冷静さを失うほどの物悲しさを覚える。かれの小説の特異性は、実在することの尊厳をゆっくりと剥ぎとってゆく霧のように、現実が形而上の世界に覆いかぶせられ、幽霊のように憑依されていることにあると思う。それは何かの隠喩ではない。