この優柔不断が、現実の膂力と自己の卑小さを手っ取り早くすり合わせようとするときにはたらく、やがて訪れるはずの栄えある人生を待望するかのように抱かれた実力へのいかにも祈願的な期待と、じかの感覚から遊離した表象をいっさい排除してしまうような過度の現実のなかへと人を放りこむ苛酷さ――それは私の想像をつねに飛び越えてゆく過去の山行の想起が連れて来る、肉体を押し潰すような水圧を思わせるあの衝迫のことであるが――の狭間から生じているのは明白だ。奥穂-西穂縦走はたとえ滑落しようともあまりある魅力をもっているかもしれないが、長期の縦走の締めとしてこの核心部にことさら執着を見せることは、この常念・槍穂縦走というものが、望外に手に入る機会を得た利益を目ざとくせしめようとするときに発揮される商魂じみた、油断のない計算高さによって見せかけられた目的にすぎなかったことを告白する羽目になろう。私の中での過大ともいえる西穂高の権威は、それが一要素として構成される計画全体のうちへと折り返されて、この山行を志した私自身を貶める危険性さえある。何事においても、根をもたない想像的な力に引きずられるべきではなかったのだ。
